MISSING FRAGMENT: ‘ELENA’

 

elena

MISSING FRAGMENT:  ‘ELENA

from  ‘THE FRAGMENTS: CHILL’,

‘TOGABITONOSENRITSU’ feature phone ver.

 


 

カタラレなかった物語。
ぜってーカタラねーって決めてた、乙女のタブーMAXな罠的物語。
……どうせ誰もキョーミねーっしょ、とか割り切りながら、左手でつづる、萩尾恵澪奈の物語。

 

 

ちーっス。
忘れてたっしょ、あっしの名前の漢字表記。くっひゃひゃひゃひゃ!
ンなフザケた名前付ける時点で、親の素養が知れるってもんっしょ?

 

 

――なにがエレナだ、バーカ。あっしゃ日本人だろーが。

 

……あ、いや、わりわり。
なんつーか、独りのときテンション維持すんの下手なんスよね。
元々けっこー地味子だったもんで。

 

で? どんな話が聞きてーっスか?
どこのケーキがうめーとか? ガッコの誰と誰がヤッたとか?
そゆんじゃない? ……そっスか。

 

あたしの話なんざ、
何にも面白くないと思うけどね。

 

……あ、それね。大したことじゃないんスよ。
単に“あたし”をすばやく言ったら、“あっし”や“あーし”になるだけ。
深い意味はねーんスよ。

 

shades

どっかの誰かさん達と違って。

だからまあ、しばらく“あたし”で喋るっスよ。
ビミョーだけど敬語代わりってことで、ヨロっス。

 

さ、何から聞きてーっスか?
メニューは2つだけっスけど。
ウチのことと、ガッコのこと。
――あーまあ、順番がいっか。
わりっけど、先にウチのこと話しとくっスよ。
だいじょーぶ、こっちはすぐ終わっから。
……。

**

萩尾エレナの母親はビッチで、父親はクズでした。おわり。

 

えー、マジでそんだけなんスもん。
語るべきことなんてなんもねーよ。
……えー……わぁーったよ。
ちょっとだけっスよ?

 

……あたしの母親はキャバクラのホステスで、オヤジはその客。
つってもオヤジは工場働きで、金貯まったら会いに行くみてーなビンボったらしい通い客だったみてーっスけどな。
まー、あんまり熱心に口説いたもんだから、グラっときて、情けをくれて、その上、結婚までしたんスけどな。
後先考えてねーよ、ったく。
びんぼー暮らしの男と水商売の女が結婚して、女が商売やめて、どーやって食ってく
つもりだったんスかね?

 

結局、その程度もアタマがねー奴らが、うまくやってけるハズが無かったんスよね。
母親は、結婚した時とおんなじノリでどっかのヤローに一目惚れして、生まれたばっかの一人娘残して逃げやがった。

 

ま、オヤジはかわいそっスよ。
純情だし、基本わりーことできねー奴っスからね。
そっから、薄給なのに男手ひとつで娘を育てよってんだから。
……あ、一応言っとくけど、この娘ってあたしっスから。変なトリックとかねーっスから。
ちなみに名前つけたのはバカの母親。
だからあたしは自分の名前がキライ。
漢字もむずいし。

 

……

 

まあ、この辺の話は、ぜんぶオヤジの口から愚痴として聞いたもんだからさ。
嘘かもしれねーっスけどね。
ずーっと愚痴聞きながらガサツなオッサンに育てられたら、ヒネてガサツな娘に育つのもしゃーねーっスよね。
……まあ、これで “ガサツな父娘が仲良く暮らしましたとさ” で済めば話は簡単だったんスけどね。

 

実際は、やっぱおカネの問題が切り離せねっスよ。
娘が育ちゃ育つほど、金は要るようになるし、仕事は儲かるわけじゃねー。
んで、まあ、仕事増やしたりもしてたけど、付き合う人間くらい選べって感じっスよ。
――頼まれて、盗品の金庫こじ開けんのに手ぇ貸したってんで、あっさり御用っスよ。

 

わりーことはできねーって分かってたのにやったってのは、そんだけ金が無かったってこと。
その半分以上は、あたしのせいだったんだろうから、あたしには何も言えねっス。


つーわけでね。あたしは現在、独りぼっちなんスよ。
ホントは、中坊ン時オヤジがパクられてから、そーゆー施設つーか、ホームってのに所属してんスけど。
ま、あんま馴染めなくて、すったもんだの末に今のカタチで落ち着いたんスよ。
ガッコの月謝と生活費は出してもらって、後は自宅暮らし。週イチで施設に顔出す、ってね。
いちお、ボロだけど家があって、借金もなかったってのは、オヤジに感謝できる数少ねー中でも最大のポイントっスね。

 

……ま、最後にゃあたしに客取らせようとかしてたみてーだけど。
人間、ビンボーが極まったら畜生になっちまう。
だから、人間は畜生くれーにしか信じちゃダメなんスよね、きっと。
ほい、これがウチの話。
萩尾家の、どこにでもある、つまんねービンボー話でした。

 

ま、それでも生きてるし、オヤジは壁のむこうで改心してマジメになってるみてーだし、
サイテーの不幸ってんじゃない。
それでも、オヤジがおかしくなって、捕まるちょい前くらいの時。
あたしはやさぐれて、自分が世界でいっちゃん不幸だと思ってた。
――クズみてーな連中と、トモダチ付き合いしてみたりしてね。
んで、親譲りでバカなあたしは、とんでもねー失敗をした。
それが今から話す、ガッコの話。


マコ: 『あはは、マジでー?』
『マジだって! **が**と空き教室でチューしてるの見たって、たいちゃんが言ってたから!』

――マコは、小坊の頃からのあたしの友ダチ。
あたしんちの事情も少しは知ってるし、その上で付き合ってくれてる、すっげーいい子。

 

マコ: 『はぁ~、でも夢あるよねぇ、私も純愛してみたいなぁ』
『えー、やめときって、ヤローは大人になってから吟味しねーと、今はどいつもバカでケダモノだよ?』

 

その頃は、あたしは完全にガッコから目ぇ付けられた問題児だった。基本はサボりに徘徊、夜遊びに、他校のチンピラとの関係。
そんなでも登下校を付き合ってくれてたんだから、マコはすっげーいい子。
……言っとくけど、この子はホントに最後まで、すっげーいい子のままだから。
あたしが裏切られたとか、そんな話じゃねーから、絶対。

 

マコ: 『え~、エレナって夢なさすぎ。変な奴らと付き合ってるからだよ。喰われちゃう前に更生しなって』
『――アハハ』

 

でも、友ダチだって知らないことは山ほどある。

 

マコは、あたしが酔狂じゃなく、おカネ目当てでそいつらと付き合ってるってことを知らない。
更には、 “喰われる” 以外の方法で稼ぐために、使用済み下着だの制服だのをそいつら経由で売ってるんだってことも。

あんたに何が分かる?
フツーの幸せな家に暮らしてるあんたに。

――心の表面では、そう息まいて。

こんな汚い私を、責めずに受け入れて欲しい。

――心の内側では、そう懇願してる。

それが、あたしにとってのマコ。

 

マコ: 『ま、いい出会いがあることを、親友として祈ってるさ!』
『てめ、なまいきなー!! こっちこそ祈り返してやるって!』
マコ: 『アハハハハ!! 祈って祈って!』

 

……そんな、当たり前の放課後の別れ際があって。

 

 

マコ: 『――どうしよう、エレナ、どうしよう――』

 

 

――たった3日後に、そんなマコの泣き声をケータイで聞くなんて思ってなかった。

 

カゼだとかで3日ガッコ休んで、その後、夜に電話が来た。
ずっとどうしようどうしようを繰り返すマコをなんとかなだめて、
何時間もかけて(その月の電話料金ひどかったっス)事情を聞いた。

 

 

――エレナ、私、妊娠した――

……要は、そゆこと。
なんのことはなくて、あたしもマコのことを全然知らなかったってだけ。
マコ、実はこっそり、1コ上のセンパイと付き合ってて。
でもそれは、マコが憧れた“純愛”じゃなった。
好き放題されて、それでもマコはそのクソヤローのことが好きだとかで、されるままになって、このありさま。

……それを聞いて、あたしはなんて考えたと思う?
マコを“喰った”男に腹を立てた?
女って生き物のバカさにあきれた?
マコのカラダを、心から心配した?
――もち、それもあったっスよ。
でも、たぶん一番大きかったのは。

うれしい、って気持ち。

マコ: 『――どうしよう、エレナ、何かバレない方法、無いかな――』

……マコが、あたしを頼ってくれてる。

マコ: 『――こども、おろす薬とかって、ないのかな――』

マコが、あたしにしかできないことを期待してる。
……当然、そんなの、やべーものだ。
普通の方法じゃ、手に入らない。

 『――分かった、心配しないで。安静にしときな。
何か分かったらすぐ連絡する』

電話を切ってすぐ、着替えを始めた。
で、安酒食らって寝てるオヤジを起こさないように、そっと家を出た。
奴らの溜まり場に行くために。

……

…………

………………

『――マジで効くの』

“頼みごと” から、2週間。

**: 『マジだって。そんだけでお前のパンツ100枚分くれーすんだぜ』

そういって、知り合いのチンピラのリーダーはカルーく笑った。
取り巻きどもは、どいつもゴツイシャツやアクセまみれで、げらげら笑う。

“シンナーなんとか” っていうらしい、小瓶の中のクスリ。
あたしの知ってる “シンナー” とは全然違うもんだ。良く分からんけど、隠語ってのはそんなもんっしょ。

**: 『つーか約束だろが、とっとと脱げよ』

『――』

無理な “頼みごと” の代償として、あたしは “喰われる” ことになってた。

エレナ: 『――効いてからじゃねーと、信じねーよ』

**: 『へっ、用心ぶけーこった』

――無理にここでがっついてこねーってことは、コレの効果が確かだってこと。
あたしはそう判断して、その場を後にした。

で、マコにそれを渡した。

一緒にもらった紙切れと一緒に。
それには、こう書いてあった。

“1回耳かき1杯、
6時間だけ間を空けて、
3回だけ使うこと”

マコは、涙いっぱい浮かべて、ありがとうって、言ってくれた。
あたしは、こんな薄ぎたねーあたしがマコに感謝されたことが、ホントに、ホントに嬉しかったんだ。

――その時のマコの笑顔が、あたしの見た、最後の “マコの笑顔” だった。


翌朝、マコは救急車で病院に運ばれた。

押しかけたあたしに、マコの両親は目をむいた。あたしが “悪い友ダチ” だってのは知ってたから。
――マコの妹が、教えてくれた。
マコは妊娠してたけど、 “ひどい症状を起こして” 流産したって。


しばらく経ったある日、あたしはこっそり見舞いに行った。
マコの妹が、手引きしてくれたんだ。
夜間は親族だけ入れるってことだから、あたしはガッコサボって、病院に入ったんだ。


マコ: 『―― ―――― ――――   ――』

窓の無い個室。
あたしは。
あたしは、見たらいけないものを見た。

マコ: 『――……―― ―――――  ――……   ――』

マコはひたすら、口をもごもごと動かしていた。
両腕は柔らかいマジックテープつきのバンドでベッドに緩く固定されてた。

そして、けだるげにこっちを向いて、

マコ: 『――――――ちょ だい』

カスレ切った声でそう言って、にまぁ、と口を開けて笑った。

歯がぜんぶ、ボロボロだった。
歯ぐきは黄色い水ぶくれだらけで、
舌は赤黒い噛み傷だらけだった。
唇の端がひどく裂けてて、
黒い縫い糸がザンコクに縫ってた。
その口から、
ヨダレといっしょに、
しゃぶってた白い歯のカケラがこぼれおちて。

――何も言えないあたしの手をマコの妹が引いて、ムリヤリ部屋から連れ出した。
そんで、言った。

おねーちゃんは目を覚ましたあと、夜にそこらじゅうをうろついて、“くすり”っぽいものを片端から飲み込んだんだって――

――お医者さんは、変なマヤクのチュードクだって言ってる――

――おねーちゃんのへやから、空っぽのビンが出てきた――

――どこかのだれかが、それを渡したんじゃないかって――

――もう、ここにはこないで――

おねーちゃんに、かかわらないで――


**: 『お、来たか? 効いただろ? 効果はバツグンって触れこみだったかんな』

『……ああ、効いたよ』

**: 『だろ、ところでアレ、ちょっとでも使いすぎたら
廃人になるくれーやべードラッグだつってたけどよ』

『へー、知ってたんスか』

**: 『ンだよ、だから使用量もちゃんと書いてあったろー?』

『……』

**: 『流れちまうってのは副作用らしいが、効いてよかったじゃねーか!
ぎゃははははは!』

『…………』

結局。
あたしを。
こんな奴らを、頼っちゃいけなかったんだよ、マコ。
……もう、謝ることはできねーけど。

**: 『じゃ、約束だぜ。脱げよ』

『――そっスね』

やるこた、やんなきゃ。
あたしは、上着を脱いで、
シャツを脱いで、
スカートを脱いで、
ショーツに引っかけといた、パチったナイフを引っ張り出して、
目の前のクズに襲いかかった。

………………

…………

……


……あー、大したオチはねーんスよ。
結局多勢に無勢で、返り討ち。
ボッコボコ。
通りかかった奴が通報してくんなきゃ、あたしは好き放題されて殺られて埋められてたかも。

……で、結局警察沙汰になって、マコのことも、クスリのことも、全部バレた。
なんか、チンピラに薬売った “女” ってのが、どこの誰か分かんなかったんスけどね。

結局、そこで話は立ち消え。
あっしは――相当絞られたし、すげー停学くらったけど、結局悪意じゃねーってんで、
どっかに送られるとかは無かった。
オヤジも、すげーかばってくれたし。
保護観察とかいって、知らんオッサンとオバチャンに面接されて、色々守れって言われて、頑張って守って、それが済んだら、オヤジがパクられて……もー、アレっスね。ウチは税金食いつぶしすぎっスね。
真面目に働いてる方々、すんませんっス。

……ま、こんだけ語って何が言いたいかっつーと。
あたしはバカで、疑い深くて、それにはこんな理由があったってだけなんスけどね。
こんなバカでも高校に行けて、あたしより頭軽いコらとキャピキャピいってられる。
ありがてー話っスよ、ホント。

でもま、管弦部の連中のほーが面白かったっスけどね。

カタラレなかった物語。
バカだから言っちった、フタを開ければゴミみてーな物語。
……ちょっとでも同情してくれたらそれで上等な、萩尾恵澪奈の物語。

あたし、バカっスからね。
優しくしてくれたら、弱いんスよ。
……もっと人間不信なキャラになりたかったんスけどね。
ま、なんかあったらまた来て欲しいっスよ。おんなじ話しかできねーっスけど。

んじゃま、最後はアレでシメるっきゃないっしょー。

キメキメっ☆


…END OF FRAGMENT