KEMCOのノベルADVは、割とひんぱんに「デリケートな話題」に言及します。
人命を軽視した設定。社会問題の提示。残酷表現。恋愛と性。キャラクターの言動や心理描写におけるちょっとした逸脱……
こうしたものは作品のディテールを補強し厚みを出すのに一役買う一方で、それに触れた人が違和感を覚えたり、不快に思ったりする危険も生じさせます。
そんなとき、ADVチーム内ではしばしば「nabe VS amphibian」の議論が勃発します。
これは10/22(木)の夜に発生した、とある「デリケートな話題」に関する議論の様子です。
人によっては抵抗感のある話題を扱っていますし、微妙に既存作品のネタバレを含みますので、ご覧の際はご注意下さい。
nabe: これまでに何度か話してるように、月経関連の表現にちょっとひっかかってるんですが、理由がこないだ少し分かった気がする
amphibian: それはぜひ聞いておきたいな
女性のいわゆる「生理」に関するコンテキストは、トガビト、DMLCに存在しますね、確かに。
nabe: 内面に直結しすぎるんすよ、月経て。
amphibian: ふむ、内面に
nabe: その人の内面に影響する所だったら気を使って話をするじゃないですか、両親が子供の頃亡くなってる、とか
nabe: 多分、そういう前準備なく、髪切った?みたいに扱っていい相手、ダメな相手ってのがあるんすよ。心を許した相手かどうか、っていう
nabe基準においては、人格の内面に踏み込む、公衆の領域から踏み込まれたくない要素、ということです。
amphibian: うーんと
amphibian: 俺の中では、津波やら原発やらを軽々しく扱うのはNGだけど、殺人やら火事やら個人の災難に大して言及するのは気にしだすとキリがないからOKという線引きなんですよ
amphibian: 実際、「両親が子供のころ亡くなっている」というのも作品でやっちゃってるわけで
amphibian: それはフィクションで月経・生理を話題にすることと同等ではないの?
nabe: そういう「重い話だ」って思ってるキャラが居ないところがあれかなと
nabe:「聞いたら悪いかな」って気にしてる一段落があれば、作中で重い話として扱われてるなって分かるわけで
ここにamphibianが噛みつきます。
amphibian: ふーむ
amphibian: ちなみに、乙羽のときは最大限それを気遣ったつもりだったんだけど
nabe: そうか、だとすると結構細かい所になりそうですね
amphibian: 乙羽のも気にはなったんだっけ?
nabe: 少し。地の文でもさらっと血に言及するとことかかなー
amphibian: ぬぐぐぐ……その辺のデリカシーの機微は異性だから分からんのだろうか……
nabe: ああ、でも
nabe: 血が燃えるって設定自体、結構踏み込んでるもんなあ
amphibian: 正確には体液が燃えるんだけどね 涙も燃えたし
amphibian: とりあえず、そのあたりは気をつかいつつもエグく書いたつもりではある
nabe: そうだな、月経血でなければならないって重い理由が説明されてないままだから、軽く扱われてる感じになるのかな
以下、amphibianによる反論(弁解)……あと、微妙に作品解説。
amphibian: んー、設定上「なければならない」わけではなくて、
amphibian: あれは「待ちに待ったものが来たが、それによって絶望させられた」という意味なわけじゃないですか
amphibian: 自分は女なのか? → 女だった → ただし人間ではなかった みたいな
amphibian: この流れは、あの現象によって個人的にはうまく書けたと思ってたんだ
nabe: そうだなー、月経をネタにする場合、よっぽどじゃないと重いものを題材にするんだって感じがしないんだろうな
nabe: この場合は確かに、作者自身が月経を軽くとらえてるって感じ方になるかもしれない
「重く扱ったつもりだ」「そうは見えない」という点で両者認識のズレ。ここが意見衝突の原因でしょうか。
amphibian: ……うーん、納得はできないが、男としては反論もしがたいところだな
nabe: まあ、女性作者が月経や妊娠をわりと軽めのネタにする作品もあるから、一概には言えませんが
amphibian: こっちにも一応なんでもいいとおもってるわけじゃなくて
amphibian: 例えば「経血を見られたら爆死する!」とかいってコメディをやるのはさすがにちょっとどうかと思うけど(いやレーベルとか場所次第であって表現としてナシって話じゃないですが)
amphibian: 「月一で変身するヒロインが活躍するコメディ」ならアリな気がしてきた
amphibian: んー、ぶっちゃければ、個人的なNGのラインは「血が描かれるかどうか」であって「月一で体調がめちゃくちゃ悪くなる」くらいにデフォルメした月経なら扱っていいかもしれないと思っている、かも
nabe: そういうのには、「設定として使わなくてもいい所に使われた」、って感じる部分がありますね。作者側も気をつかうべきだ、というか。
amphibianはnabeのNGラインを探ろうとしたようですが、根本的なズレを感じ、質問を変えます。
amphibian: それ、たとえばさ
amphibian: さっきの「月一で変身するヒロイン」のやつ、外面はコメディっぽく見えて内面は女性性を極めて深く考察しつつハードな話が書かれてるとしても、「それを看板にして扱うこと」じたいが冒涜っぽい?
amphibian: 妊娠や生理ネタも、コメディチックな看板にはできつつも、女性の苦しみや生理活動を深く考察する内容になりうると思うけど、そのコンセプトの字面上のギャグっぽさが既に冒涜ってこと?
amphibian: なんとなく、「本質がなにか、実質どういうことを扱っているか」ではなく、「入口の段階で形式上の作法に違反してる」とか「言及すること自体がNG」とかに近い気がしてきた
nabe: そうすね、入口における、言及の仕方は大きい
nabe: たとえ中身がどうあれ、看板の付け方によって、ショッキングな物を茶化すようにも見えるから。リスカとか、自殺とか、そういうところを扱うのに似てる
nabe: ちょっと前にDMLCの感想で「生理とか扱ってて嫌だった、どうせ男性ライターだろう」ってのがあって、まあ分からないではないかなーと思って。
amphibian: んー、文字通りデリケートな題材なんだなあ……
この議論は制作中の箇所に対して行われたものではないので、結論保留で終了しましたが、実はかなり根が深い問題ですよね。
なにしろKEMCOのノベルADVシリーズは、全般的にキワモノっぽい看板で売り出しています。
中身は真面目に作っているつもりなのですが、看板の印象が最後まで続くこともあるでしょうし、それであれば「真面目に扱うべき話題」が出ただけで反感を買うこともあるかもしれません。
ADVチームは引き続き、自分たちの生み出すものについて深く内省しつつ、制作を行っていくことでしょう。
そうして出てくるものがこういった議論を経ているのだ、と思って読むと、またすこし違う見方ができるかもしれませんね。
ちなみにこの議論は、作中の「ちんこ」という表現がアリかナシかという激論のあとに発生したものでした。
ADVチーム、今日も真面目にがんばってます。
自分(女です)はあの描写、ちゃんと理由があって描写しているのであれば全然アリだと思います(むしろ好きです)
無意味に軽々しく描写するものではないと思いますが…
今までの描写は問題の深刻さを表す事に成功していると思います
乙羽や七緒ちゃんのあの描写、両作品共にトップレベルで好きな描写ですし
いろんな方々の意見と被るところもあるかもしれませんが、
確かに蛇足的に出ていると感じる部分もありますが、あまりぼかされるとわからなくなったりするかなと思います。
この記事読んで考えたことですが。
ケムコのADVの場合、下手したらいじめにつながるような描写もあり、でもそれらの描写はシーンではなく、その作品の味わいみたいなものだったり、作っている方々の気遣いや議論を感じさせることにも一役買っているのではないでしょうか。
初めてケムコ作品をやった時に感じましたが、製作陣の方々は避けれる話題なら避けて通るでしょう。
入れたということは、何かしら伝えたいことがあるのでしょう。
そこを考えるのもケムコ作品のいいところかなと感じました。
答えにはなってないですが、感じたことをずらずら書いてみました。
もー、酸いも甘いも記憶な彼方なおっさんの私は一切合切気にならなかったなー……。
というより、逆に『ん?なんか意味ありげなぼかし方してる。なんか伏線とかあるのか?』⇨『……あぁなんだ。ただ生理の話だからぼかしてるだけか。』
っていう、まるで思春期の娘に嫌われる父親の様な思考回路を辿りましたよ。
おっさん読者の私は、娘さん(作品)には『そんなぼかし方をするから逆にエロくなるんだ!生理現象なんだから堂々としなさい』と言いたくなるけど、
多分世の中のお母さん読者さんやお友達読者さんは、別の感じ方をするんだろうなぁ……と、実際の人間関係に準えて考えてみたり。
大体nabeさん寄りなユーザーです。
>「生理とか扱ってて嫌だった、どうせ男性ライターだろう」
個人的には最初に出てきた感想はこれでした。主観的意見では。
七緒や乙羽のバックボーンを思えば、象徴的なものになるのは納得できますし、描写として効果的だったように思えます。
客観的には制限や批判によって表現の幅が狭められてしまうのは好ましくないなとも思います。
ただ、トガビト・DMLCと続いただけに「好きなネタなのか」と感じた人もいたのでは。
特に私のようにWiiUで続けて遊んだユーザーも少なからずいると思いますし。
生理なんて無理して書くような事でもないですけどね
ただし初経に関しては結構特別な意味があったりしますけど
あれはマジ恐怖ですよ
作品を読んでるときはそこまで気にしてはいませんでしたが、確かにデリケートな話題ですね。
あくまで個人的な感想なのですが、七緒や乙葉の生理表現は、嫌悪、不安、絶望などの感情に直結していてストーリーに重みを増すものになっていたと思います。
それと、トガビトのウェブコンテンツでは悠や七緒の人格についてもデリケートなものとして扱われているのを見て、かなり配慮なされているんだなあと思いました。
賛否両論ある話題かと思いますがこういったきわどい(?)表現があるのもケムコさんのADVの魅力だと思います。
あと、最下の激論についても興味深いですね。機会があれば是非聞いてみたいです。
私自身の、タブーとかデリケートな話題に対する抵抗のなさは他の方より大きいので(育ちが悪い)私の意見はあまり参考にならないと思うのですが、
トガビトでの描かれ方は、自分の中の女性性を嫌っているというのが際立つ内容でしたし、自分の中の女性性を意識せざるを得ない状況でそれを隠しながら好きな人とあの異空間で過ごす→二人きりになってそのストレスをさらけ出す、の流れがスムーズに感じました。秘密を覗く楽しさもありました。
DMLCの感想は、他の賛成派の方と同意見です。
表現には気を使わないと規制などに引っ掛かるのはもちろん、嫌な思いをする人がいる…というのは気にすべき点なのですが、そのような審議が必要なほどのことを描くから読者さんに伝えられること、考えてもらえることも多いのではないかと思います!
大好きといったら語弊があるかもしれませんが…💦 私もケムコADVのそういうシーンは共感できるし、考えさせられるしでとてもいいと思っています。
個人的にはただの下ネタとして生理関連の話題を出されると結構嫌ですね。
ただ、DMLCでは音羽の性の悩みという非常に真っ当な題材であり、その設定的にも避けては通れない話題だと感じたので全く抵抗感はありませんでした。
むしろ生理の話を使わないと、音羽の性の悩みの真剣味が減り軽く感じられてしまうような気さえします。
自分が近親相姦による子なのではないかなんて悩み、身近な例からは程遠くて、プレイヤー側はなんとなく想像することしか出来ないですからね。
どの程度までなら可能かのラインは、別に気にしない人もいれば暗喩で引き合いに出しただけで引いてしまう人もいたりと人それぞれで万人受けは無理だろうと思います。
自分の場合は安易に話題に出すのは恥ずべきことと教わったので初見のときはカルチャーショックを受けたのですが、今ではストーリーや設定に深くかかわってるのなら賛成だと思います。ただ、そうでもないなら安易に出さないほうが無難だと感じます。
例えばDMLCのあの人は、悩みを打ち明けるシーンは重要なシーンで、キャラの人格形成エピソードに深くかかわってましたから問題ない方だとは思いますが、トガビトのは、女であることが嫌だという一面こそあっても、DMLCのあの人ほど根幹に関わってもいなければあのあれに伴う体調不良が物語りに影響を与えたりしたわけでもないので、二周目追加文の倉庫で必要なものを探しているシーンの描写量がちょっと蛇足に感じました。(一周目なら伏線ともとれなくなかったのですが二周目からの追加文章でしたので余計に)ああまで詳細に描写せずに、何か必死に探して、見つけたもののバレたくないからポケットに入れた程度にして(居合わせてた人がその様子をみて何かを察したりはそのままで)、「これだから女は嫌なんだ」のセリフでとどめて読者に察してもらうだけでよかったかなあと思います。
賛成か反対かと言われると賛成です。
やっぱり重要になるのは初期の世界観や設定にあると思います。
デリケートな設定をすんなり受け入れられる内容の作品もありますし、その設定を取り入れることで現実味やリアル感が増すんじゃないかって思います。
最近のゲームやアニメでも「こういう世界があるかも」とか「いつかこんな世の中になるかも」と思わせるような作品が人気が出てるような気もします。
参考にしてくれたら嬉しいです!
頑張ってください!
軽く流す人もいるでしょうし、繊細な部分だからと気にする人もいるでしょうね。
生理や死などに関係なく、大多数が受け入れる・流す内容であっても嫌がる人はどんな話題にも絶対いますから……
配慮が足りないのは問題でしょうが、そのために表現の幅を狭めすぎるのもよくないかと。
私はケムコADVにはケムコADVにしか出せない味や良さがあると思っています。
トイレ火災の原因にこの記事で気づいた上に、陰険メガネの生理に萌えた私の意見ですが…(・・;)
長文失礼しました。
私は女ですが、件の音羽ちゃんのシーンは作品中でも1.2を争うくらいに好きなシーンです。