amphibianです
めちゃくちゃ間があきましたが 一応おわるまでやっていきたいと思います
物語を書く・広げる
前回(1)の文章技術はまんま文章の技術でしたね
それと比べると神秘の領域に片足突っ込んでいる感じがしますが
「物語を語る」ことには 実はある程度技術は確立されていて
換骨奪胎でお話を量産することは難しくありません
ここで言っているのは 「物語の筋」についてです
あらすじやプロットで表現される部分ですね
筋は「ちゃんと楽しませる構造になっていること」が重要で
よくできた物語は筋を見ただけで「ああこれは面白いだろうな」「これは人気でるのは分かるわ」という説得力をもちます
しかし
その時点では人の感情はほとんど動かないでしょう
実は「面白い」という感想にはいろいろなものが含まれています
「話の筋が面白いと思う」ことと「感動する・その作品が愛おしくてたまらなくなる・結果『おもしれーー!!』と叫んでしまう」ことは別物です
対戦系のスポーツの試合の報道をみてください 野球でもサッカーでもなんでもいいです
スポーツを憎悪しているひとはゲームのログでもなんでもいいですが
あんまり知識がないものがいいです
誰が勝って誰が負けた 試合運びはどんなかんじでどんな劇的な展開があった とまとめられていると思います
すごくドラマティックな逆転劇や感動の展開も書かれているかもしれません
それが 物語の「筋」です
それで「ふむふむ面白い展開だね」と思うことがあっても
「おもしれーーー!!」と叫ぶことがあるかといえば微妙なのではないでしょうか
それで叫べるのは その競技に十分詳しいから 不足を想像で補えるからではないでしょうか
実際に試合の実況を見て 選手たちのリアルな挙動や表情を見て
目の前でドラマティックなことが起きてこそ 感情が沸き上がってくるのではないでしょうか?
現時点でのamphibianの考えをいいます
「物語」は「筋」と「身(仮)」で成ります
※身(仮)はいい名前が思いつかないので仮称です
「筋」は物語において何が起きるのかという行程表です
領域:理性
満たすべきもの:知的興味、優れたものを見たい欲、公正なものを見たい欲
求められるもの:ロジック、公平性、説得力、新奇な発想
「身(仮)」は筋に基づいて実行される具体的なエピソードや掛け合いや付帯情報です
領域:感情
満たすべきもの:感情の揺さぶり、知識欲、ストレスと解放、愛着、庇護欲、信仰心、知識欲
求められるもの:表現力、演技力、ユーモア、非リアルタイムのコミュニケーション力、専門知識
とりあえず技術化されていて取り組みやすい「筋」のほうからレベルを設定してみます
LV1. 「最低限の筋」を書ける……型の設計と最低限のドラマ付与
LV2. 「ざっくりしたプロット」を書ける……フェアさの確保・ドラマの増強
LV5. 「詳細プロット」を書ける……筋を複雑化する(伏線、入れ子、イレギュラー化)
ひるがえって「身(仮)」のほうは全然別方向のアプロ―チが必要です
LV1. 「デッドコピー」を書ける……「自分が書けるもの・感動するもの」の理解と再現
LV2. 「読まれるもの」を書ける……読み手の感情を操ることで奉仕する、という意識と行動
LV5. 「それ以上のもの」を書ける……独自色研究・筋と身(仮)の高度な連携・複雑なデータベース構築
どっちもいきなりLV5にとばしているのは
LV2まででも出来てさえいれば 結構いいものがつくれるのだと思うからです
商業的に量産される作品はだいたいこんなもんじゃないでしょうか
LV5は「それ以上」であって乱雑にいろいろぶっこんであり未整理な状態ではありますが
長丁場 高価 またはそれなりに頭角ぬきんでた作品をつくりあげるには
きっと必要になってくるところかと思います
なお「筋」に関する部分は「ハリウッド脚本術」の影響があることを明記しておきます
また 以降の例では 必然amphibianが扱うたぐいの作品を前提として 例示やペース配分をしていきます
別メディアや 別ジャンルの物語では 細かい方法論やペース配分はちがってくるでしょう
核心部分が重要だということを ご承知ください
既にだいぶ長くなっているので
以下詳細ですが 淡々といきましょう
筋のLV1. 「最低限の筋」を書ける……型の選択と最低限のドラマ付与
物語の「最低限の筋」とは 「何が起きるのかを極簡潔に並べた結果 それがお話として成立する最低限かつ必要十分な要素」です
前回いった「ワンフレーズ案」とは違います
「プロット」と本質的には同じものですが もうちょっと単純なものでいいと思います
よく言われる「起承転結」や「序破急」のような 物語を大枠で数個にぶったぎって短文で解説したもの くらいを想定してください
ただ これらの言葉の意味やよく言われる役割に振り回されないほうがいいです
陥りやすい(と思われる)罠は以下の通りです
- 「必ずどんでん返しが必要」と誤解する
- クライマックス前に話を盛り上げ忘れる
- 各パートをムリヤリ等文量にしようとしてしくじる
重要なのは
「物語が始まり 発展し 佳境をむかえ そして終結する」ということです
このどれを外しても最低限の筋として用をなしません
これをまず「型」としましょう
1. 型にはめる
「桃太郎」という物語を語るのに 最低限必要な説明は何でしょうか?
とりあえず「型」にはめてみます
【発端】非凡な経緯で主人公が生まれる
【発展】特殊なアイテムを用いて仲間を集める
【佳境】仲間と一緒に敵と戦って勝利する
【終結】宝を得て帰郷し家族と幸せに暮らす
着目点によっては他のはめ方もあるでしょうが いったんこれでよしとします
英雄譚や「行きて帰りし物語」とよばれる系統の作品で よくみられる「型」です ね
2. 「型」の検討
「型」はそれ自体はまだおもしろいものではありません
「物語」「事件」「歴史」の「一本筋が通った流れ」にすぎません
既出の例だとスポーツの試合の単純なログにすぎず
試合が始まり盛り上がって破綻なく終わった ということが書いてあるだけです
「どう発端し」「どう発展し」「どう佳境を迎え」「どう終結するのか」
その組み合わせは 細部の際は多々あれど 実はさほど多彩なものではありません
「全く新しい型」を生み出すのは かなり困難ですが
悲嘆する必要はなく 従来の型の利用だけで十分に商用レベルのお話がかけます
「型」をたくさん知っておくというより 「最低限どういう話なのか、型にはめてみる」意識が大事です
3.「筋」へのブラッシュアップ
「型」を「最低限の筋」にするためには 以下のようなことが必要です
・劇的な困難(脅威の具体化・特異化)
・劇的な解決(特異な困難に対し、特異な=劇的な行動を起こさせ、解決させる)
・物語の独自化(興味の引く流れやキーワードの採用)
上記に従って「型」を「桃太郎」の最低限の筋にします
【発端】「桃」から主人公が生まれ 鬼退治に出征
【発展】「きびだんご」で「犬」「猿」「雉」を仲間に
【佳境】各々の強みを生かして戦に勝利し鬼退治を果たす
【終結】宝を得て帰郷し育ての親と幸せに暮らす
さて これはおもしろい話なのでしょうか
「筋」と「身(仮)」は別技能を要するとはいえ最終的に一つになるものですので
どういう「身(仮)」をつけていくかは当然「筋」によってくるわけですが
この時点ではその方向性が見えないため 「どの点で楽しませてくれるのか」がハッキリしていません
桃太郎の絵本はだいたいこんなもんではありますが だからエンタメとしては不足でしょう?
色々方針はありますが とりあえず現代のラノベ・コミック方面で伸ばすならば
「バトルの強化」「キャラ深化」「戦う目的の深化・人情化」 といったところでしょうか
現代社会の申し子である我々としては 敵地とはいえ 侵攻をかけるには正当化がいりますから
というわけで 改変します
【発端】「桃」から主人公が生まれ 育ての親の仇をとるために 鬼退治に出征
【発展】「きびだんご」で「犬」「猿」「雉」を仲間に
【佳境】強力な鬼と次々に戦うが、各々の強みを生かして切り抜ける
最大の敵にまみえ、瀕死の危機においやられるが、育ての親の形見のアイテムで逆転
戦に勝利し鬼の討伐を果たす
【終結】宝を得て帰郷し育ての親と幸せに暮らすの墓に勝利を報告する(泣きシーン)
おもしろそうでしょ
と胸を張れるほど大したものではありませんが
エンタメ性は上がったのではないでしょうか
amphibianは話のカロリーが高くなったとかいっています
LV1でつくる「最低限の筋」は このくらい独自化され 「おもしろさ」への方向性が立っているものがあれば十分と思われます
この「最低限の筋」は他人に見せて説明しやすく 自分が書く方向を定めるうえで 有用なものです
手がかりがない場合は まずはここから始めるべきと思います
筋のLV2. 「ざっくりしたプロット」を書ける……フェアさの確保・ドラマの増強
「最低限の話の筋」を たんに「冗長にすればいい」わけではありません
「ざっくりしたプロット」はギリギリ他人(特に管理者や企画者など偉い人)に見せる可能性があり かれらは「最低限の話の筋」で書かれたことが「具体的にどう実現されるのか」「本当に実現されているのか」などを見てきます
もちろん 書く本人にとっても 勢いで書いた「最低限の筋」が本当に実現できそうかのイメージができて 安心できるので やるべきです
上記のような目的があるので この辺から説得力がとくに必要になります
・具体化(話の重要な部分がどういう流れになるか)
・理由付け(具体化した話が、ちゃんと理にかなった流れになっているか)
・バランス調整(脅威と対策は釣り合っているか、登場人物は公正に扱われているか)
これらに加え さっきやったやつですが
・劇的な困難(脅威の具体化・特異化)
・劇的な解決(特異な困難に対し、特異な=劇的な行動を起こさせ、解決させる)
・物語の独自化(興味の引く流れやキーワードの採用)
これらもやっていくことになります
紙1~数枚というようなかんじで 話の長さと複雑さと要請にあわせつつ
ある程度読み応えのあるものを 用意してゆくとよろしいのではないかと思います
ざっくりと章構成とかも切っておいて それに準じて書いていくのもアリです
往々にしてここで切った構成で最後までいきがちです
例を書こうとおもったのですが 桃太郎を筋にして説得力のあるプロット書く労力がヤバそうなので すみませんが省略です
さらにそろそろ設定も添えておきたい時期になります
・舞台設定
・キャラ設定
・アイテム設定
これらをたくさん書いていきたい皆さんはいらっしゃるでしょう 楽しい作業です
しかしここで書く設定はそれぞれ1行ずつくらいにとどめておいたほうがいいです
さらに言えば
ここで書くべきは「キャラの印象を把握できる要素」と「プロットで重要な扱いになる要素」だけです
例:
犬 黒柴。忠実系パワーキャラ。アキレス腱破壊が得意。手長鬼にやられる。
細かいプロフィールは 後々足していきましょう
筋のLV5. 「詳細プロット」を書ける……筋を複雑化する(伏線、入れ子、イレギュラー化)
番外編でチラ見せしていますが
amphibianの場合 詳細プロットは「シーン区切り」で「何が起きる」「どういう意味がある」「後々どういう意味をもってくる」といったことを書いていっています
実のところ そこまで複雑なものは 制作現場の人間しか読むことはありません
それだけ結構長くて複雑なものです
基本的には 「ライターが文量・作業量を見積もるため」に作ります
見積もりというのは とてもいやで気が重いものですが
商売としてテキストを書くのであれば避けては通れないものです
いくら起承転結4段階で筋を作っても 長編を書く場合は大量のテキストを使うことが前提ですので
そのテキストをどう使っていくか しっかり書いていったほうがいいです
・後々非凡な展開を発生させる・隠蔽された設定を開示することのエクスキューズとなる前兆を置く(伏線)
伏線って 要は「なにその超展開ズルくね?」といわれるような飛躍した展開を書くにあたって「いや超展開じゃないんですよちゃんとこういう流れで発生進行してたことが書かれているんですよ」というアリバイづくりをしとくような行為だと思っています ただ予兆を貼りまくっても 開示されるものがヘボかったらあんまり意味ないです
とはいえ 長いお話をやるなら それなりにすごいことを書かなきゃならないので それなりにすごい超展開をしっかりアリバイづくりして仕込むことになります がんばりましょう
・筋を構成する大量の細かいエピソードを入れていく・筋の中で別の筋をやる(入れ子)
そもそも物語を細かいエピソードの集合として考える向きもあります
細かいエピソードじたい起承転結をつけて緩急を出すのもよくあります
複数の事件がひとつに収束するようなかたちもありますし
多数の人物がからむ長編で 実は複数人の思惑 複数人それぞれの物語が並行で進行し解決するようなつくりになっていることは 多数あります
そうでなくても キャラクターの魅力を描写するとか 設定を開示するための 本筋とズレたエピソードを盛り込むこともあるでしょう
そういったものは ちゃんとするなら プロット上でしっかり配分され計画されるべきもので それをやらないとバランスが崩れたりします
特定キャラが全然活躍できていないとか 語り忘れたとか
逆に早々に語るべきことがなくなったとか
・筋を部分的に壊す(イレギュラー化)
プロットを書くことで「既定路線」が見えてきます
この事件の穏当な終着点はここだろうといったような
こういう話はこういうオチになるよねという
それがわかってこそ その流れを破壊するためにどうすればいいかが見えてきて
それに必要なエピソードや伏線が出てくるので
それらをしっかり入れていくことができます
詳細なプロットはとくに「高度な構造をもつ話」をつくるには必須です
逆にいえば 「高度な構造をもつ話」でないならば省略しても書ける感じはあります
高度な構造というのは 全てのシーンに意味があって結末で全部それが明らかになったうえで解決に一役買いますとか
大量の人間が複数のシーンに跨って好き放題に動いた結果大きなことが起きますとか
そういった うまくいくとやたら効果的なやつです
ただ すごく大変です
・分かりづらくなりやすい
・分かりづらさとトレードオフで面白くなるかというとそうでもない
・矛盾が出やすい というか絶対出る というか解決不能な矛盾も出る どこかでゴマカシが必要
・上記らへんを解決するために不毛なくらい時間がかかる
これが本文直書きで発生すると狂気と恐怖で病みますので
詳細なプロットによって最低限 理屈を通しておいて わずかでも安心材料として書き始めるべきです
どうせそれでも矛盾は出るものですが ないよりはましです
「高度な構造」に挑戦する場合は絶対 短いお話から始めるべきかと思います
いきなり長い話で高度な構造にすると自動的に筆が折れます
最初に書いたシナリオである「鈍色のバタフライ」はレイジングループの4分の1くらいの長さですが
これだって複雑にするには長すぎます
実はバタフライは首謀者が単独かつ投票もないルールなのでわりと構造が単純なのです
「DMLC」は基本的に表で発生していることがすべてなので 長いですが構造は単純です
「トガビトノセンリツ」も バックボーンで起きていることはだいたいはCP描写なので さほど複雑ではなかったものの 裏で殺人や取引が発生したりもしていたので まあまあ複雑でした
「レイジングループ」は あまり思い出したくもないんですが 次はもっと複雑になるんだろうなと思います
また 長くなりました
「身(仮)」は あんまり書くことないんですが
今日はもうしんどいので また別のときにかきます
■おまけ
このエッセイ
そもそもの意図としては いただいた質問に答えようというものです
書き連ねるにつぎ こんなもん一文にもならないし なんの裏付けもないし
amphibianの書くものを気に入ってくださっている奇特な方が喜んでくれこそすれ
アホが破滅の伏線を張っているようにしか見えないのではないか
などと思うに至りましたが
それでも続けようと思いました
理由は
1. 一度言ったからには最後までやらないと格好がつかない
2. 技術としての執筆のセルフまとめ
3. 未熟なものを改善できる可能性
4. 滑稽で醜くてもいいのではないか
と考え直したためです
1はまあ 文字通りかつ主因です
2について
amphibianは既に何度か執筆技術の伝達を試みて失敗した経験をもっていて
それはそもそも伝達が不可能なのか それとも方法が悪かったのか
まだ分からないし 将来また取り組まねばならなくなる可能性はゼロじゃないので
方法をアップデートしておくことは 自分にとって必要だと思いました
3について
完璧なものでなくても衆目に晒せば 調整の機会が得られるかもしれないです
4について
作家は道化と神の役割を同時にこなさねばならない変な仕事です
妄想を世に開陳して恥部をエンタメと称して読者をぶんなぐるのが仕事でもあります
レイジングループだって頭抱えるようなクソ文やクソ台詞にあふれた黒歴史の宝庫です
そもそもが嘲笑され 娯楽として消費されてなんぼのキャリアではないでしょうか
総和がプラスでポジティブならそれに越したことはないのでしょうし
たとえマイナスにふれたとしても 落ちぶれて消えていくとしても それもまた一興なのではないでしょうか
最終局面で突然豹変しみなさんをぶちのめすかもしれませんよ
というわけで よければまたお付き合いください
以上です
大変面白く読ませていただきました。
自分は文章は書かないのですが、別分野の創作に興味があります。
でも、何から手をつければいいのか…そんなこと言ってないでまずはこれを、いやその前にまずそもそも…なんてウジウジしているうちに結局今日も何も動けてない…なんて日々を送っています。
「かくこと」の話なのに的はずれな反応かもしれませんが、自分の分野の創作にも大いに参考になりました。
なにより、作りたい!という気持ちが刺激されました。
まんが道を読んだあとの気持ちに似ています(変な表現ですが自分の中ではかなり大きいやつ!)。
ありがとうございました。
続きも楽しみにしています!
ますます的はずれな感想ですが…
いつかこんな感じ(?)で、amphibianさんの料理に対する考えも聞いてみたいなと思いました。
自分は本当に料理が苦手(でも炊事をする必要はある)で、
料理くらいして当たり前だとか、ふるまう相手に愛情があれば辛くないはずとか、わかるけど…わかりたいけど……わからん……と日々悶々としています。
料理も(相手のある)創作物だと思えば 、もう少し納得できる気がするんですよね…。
うまくいえませんが。。
なんて、関係ないただの悩みを吐露してしまいましたw
そこまで鬱々した気持ちからでなく、料理が好きな理由とか聞けたら嬉しいです。
もちろん書き物話のあとに!
長々失礼しました!
私も趣味の小説書きですが、やはり最初に一行ずつで起承転結を書くことが大切ですよね。
思いつきで書き出した話が、中盤で冒頭と噛み合わなくなるともう絶望しかないです(笑)