amphibianです
「さささ」が一息ついたところですが 新しいことをやりたいため
今回でかたをつけようと思います
駆け足になりますがご了承を
「物語を書く・広げる」後編 「身(仮)」について
前回(2)で「筋」について話しました
自分でも直近でコレに従って試作を行ったところまあまあ良かったです
今回はまず 筋につける身(仮)についてやります
「筋」は物語において何が起きるのかという行程表です
領域:理性
満たすべきもの:知的興味、優れたものを見たい欲、公正なものを見たい欲
求められるもの:ロジック、公平性、説得力、新奇な発想「身(仮)」は筋に基づいて実行される具体的なエピソードや掛け合いや付帯情報です
領域:感情
満たすべきもの:感情の揺さぶり、知識欲、ストレスと解放、愛着、庇護欲、信仰心、知識欲
求められるもの:表現力、演技力、ユーモア、非リアルタイムのコミュニケーション力、専門知識
ひるがえって「身(仮)」のほうは全然別方向のアプロ―チが必要です
LV1. 「デッドコピー」を書ける……「自分が書けるもの・感動するもの」の理解と再現
LV2. 「読まれるもの」を書ける……読み手の感情を操ることで奉仕する、という意識と行動
LV5. 「それ以上のもの」を書ける……独自色研究・筋と身(仮)の高度な連携・複雑なデータベース構築
やっていきます
LV1. 「デッドコピー」を書ける……「自分が書けるもの・感動するもの」の理解と再現
絵において模写がファーストステップとして重要なのは周知かとおもいますが 文章において写経のごとく丸写しすることが果たしてどれくらい重要か 個人的には疑問におもいます
ここにおいて デッドコピーとは 「自分が好きなものを丸ごと再生産する」くらいにとらえてください
オリジナル作品書くぞと意気込んで書いてみたらキャラ構成も話もまんまアレと同じじゃん みたいなことです
さて 自分が作品を「好き」とおもうのは なぜでしょうか
その作品が「おもしろいから」というならば なぜその作品は「おもしろい」のでしょうか
謎がよくできているから 設定がしっかりしているから なるほど それは理性的おもしろさですね 筋のほうでやりましょう
ただし あなたがその筋をおもしろいと思うに至った重要な経験は きっと記憶のどこかにあるはずなので それは思い出してみましょう
一方で 「おもしろい」ほかの理由もあるでしょう
キャラクターのかけあいがおもしろい 別れのシーンに心が打たれる 戦いにおもむくシーンにグッとくる そうですね そのへんは感情にうったえており 身(仮)の領分におもわれます
それもやはり あなたがそれを「おもしろい」と思うに至った重要な経験をふまえての感情のはずです
LV1で重要視するのは体験の再発見と自己分析です
自分がなぜそれをおもしろいと思うのか
なぜおもしろいと思うに至ったのか
おそらくそこには昔の実体験や 昔読んだ作品などがつながっているはずです
あらゆる創作は再生産に過ぎないという観点もある以上
自分のなかの原典を明らかにしておくことは 望まぬパクリを避けるためにも大事なことです
ぱっと思いつく例としては
- amphibianは「ドラえもん のび太のパラレル西遊記」で魔物にもみくちゃにされるシーンや 「アンパンマン」のかびるんるんやべろべろまんにもみくちゃにされるシーンに何かしら興奮を覚えていた記憶があり その影響で総受け的・モブ的シチュエーションに対するフェティシズムがあるのではないか
が そこで止まってはただの思い出話です
思い出の中の面白さは なぜ生まれたのか
そのキャラや その会話や その文脈に 自分の心が動かされたのはなぜか
もっといえば 自分のどういった感情がどう励起されたのか
ひらたくいえば性癖やトラウマの深掘りを行うべきです
例えば「もみくちゃ」の件でいうと 深く内省するに べつに「大量の人間にいたぶられる・辱められる」とかが好きなわけではないのですね 魔物にしろべろべろまんにしろヒューマノイドじゃない単なる舞台装置だし 感情は介在しない純粋な肉体的拘束と責めなわけです
おそらくエッセンスは「完全に身動きが取れない状態」で「思いっきり暴れること」や「意に沿わない快楽を与えられること」みたいなのであり その根底にあるのは「本気で抵抗したい願望」や「不道徳的なことに耽溺することに対する責任の放棄」だと思います
これを理解することで かつて見た「拘束されてもみくちゃにされるシーン」を再現するにあたり 「本気で抵抗させる」とか「あまり痛くしない」とか そういう要件をみちびきだすことができるはずです
デッドコピーの意は「許可なく作り出された完全なる模倣品」であり「魂のない死んだ模造品」ではありません
模写によらずデッドコピーを作れるということは 元の作品のおもしろさも含めて模倣できるのだと考えてみましょう
自分がなぜそれを「おもしろい」と思ったのか その感情的なはたらきをも理解して模倣をこころみるべきです
今回一番大事なことですが
感情的な「おもしろさ」は 理論でつくることは難しいので かなり徹頭徹尾 自分の「おもしろいと思った感覚・経験・記憶の掘り起こし」に頼って つくってゆくことになります
だから当然 おもしろいものを大量に摂取することは 必要不可欠となります
しかしそれでは十分ではなく
- なにがおもしろかったのか
- そのおもしろさは自分のなかで新しいものか 既存のおもしろさに連なるものか
- 既存に連なるものなら新奇性はどこにあったか
- 励起された感情の正体は何だったのか
こういったことを分析してゆくことが 重要となります
さらに言えば いろんなことをおもしろいと思えるほうが効率的なのは当然なので 積極的におもしろ回路を広げていくのは大事ですし
おもしろいものの深掘りをしすぎて考え込み結果つまらなくなってしまっては無意味なので できるだけ自然体で思考を行うクセをつけておくのも大事です
結局 頭がいい人ほど このあたりで有利です
(1)で「消化吸収効率」の話をしましたが 頭がよければこのへんの効率がよいので そのぶん好きなものを読んで好きなだけ武器を得て再生産できて強いです amphibianはそのへん決して得意ではないのでくやしいです
あと 「コレのどこがおもしろいの? わたしには理解できないね!」というマウントとりの作法がありますが
少なくともモノづくり手法を得る上ではマイナスの姿勢だなあと 思うのです
おもしろ回路が無いから楽しめなかっただけだとすれば 単なる不利の露呈です
せめて「本当におもしろくなかったのか おもしろい箇所が全然なかったのか あったのに反感箇所があって反発しているだけなのか」くらいは内省して 経験値にすればいいのにとおもいます (自戒をこめて)
まあ 考える癖がつきすぎると 素直におもしろい・おもしろくないと感情で受け止める感覚が鈍ってしまうので むずかしいです
いい力加減をみにつけることが 創作ライフを楽しむコツなのでしょう
LV2. 「読まれるもの」を書ける……読み手の感情を操ることで奉仕する、という意識と行動
LV1で「自分がどう感情をうごかされたか」を内省し 抽出されたものを技巧として作品に転用することができるようになりました
じつは これができるならば 抽出されたものにオリジナルの身(仮)をつけていくことで デッドコピーでないオリジナル展開が書けるようになっているはずです
「拘束」「不本意な感覚を励起」「全力で抵抗」
これだけの縛りであれば全然違うものを当てはめてやれば全然違うものになるはずで
にもかかわらず かつてあなたが得たものと同等のおもしろさをもつ物語が つくれるはずなのです
重要なこととして 物語は「なんかおもしろいもの」ではなく「読者の心を動かすことで楽しませる装置」だと認識しておくべきです
あなたは読者の感情をあやつる あやつれる 立場にいるのです
そのうえで LV2に進むならば
「読者の感情を支配してギタギタにしてやる! ハハハ!」 みたいな姿勢ではなく
「読者の感情を操作して楽しませてさしあげよう」 みたいな姿勢がのぞまれます
道具を得たら使ってみたくなるもの 武器を手にしたら傷つけてみたくなるもので
何であれある程度の技巧を身に着けると「無意味にとがったもの」とか「ただただ激しくて他人にショックをあたえるもの」とかを作ってみたくなると思います わたしはそうでした
そういったものを評価してくれる人達がいて それにお金や必要な支援をくれる環境があるなら それでも全然いい
でも 多くの方に受け入れられることが望みならば 物語で読者に奉仕する という姿勢がどうしても必要なのだと思います
つけくわえると
思考回路は人間ごとに異なっているので 厳密には同じものを見てあなたと同じ感情に導けるかは疑問です
だから「自分はおもしろいと思うけど他人には理解されないもの」については いつかの時点で決別するか あるいは「他人にも理解されるもの」に改造して出すか そういう苦労や苦悩がともなってくると思います
がんばりましょう amphibianもがんばります
LV5. 「それ以上のもの」を書ける……独自色研究・筋と身(仮)の高度な連携・複雑なデータベース構築
高度なので 仮説を多分にふくみます
- 「あなただけの思考や感動」はふつう他人に理解させるのは難しいですが これを徹底的に工夫して理解させるとか あふれる筆力でむりやりぶつけるとかで 読者に新しい経験をさせたり 狂気(ただの混乱やうすっぺらな残虐さ・悪意ではない)を表現できるかもしれません うまくやれば「独自ワールド」を形成し それじたいがウリになるはずです (いきなりここから始めるのは結構無謀です 失敗前提でトライするのはいいですが 後々かなりの黒歴史になるかも)
- 特定の身(仮)をつけるためには つきつめればそれにふさわしい筋があるはずです 「このシーンのために」複数のシーンやエピソードを適切に配置し 伏線を貼り そのうえで放つ「最も見せたかったもの」が読者にクリーンヒットする そんな作品が作れれば とても評価されるものになるでしょう さらにいえば筋じたいも感情の操作に関わる(勇者が旅立つだけでワクワクは担保される)わけですので たくさんの筋を知り 丁寧に配置し 適切に身をつけてゆくことで 読者はその世界に没頭し 容易に離れられなくなる はず です
- これだけはちょっと異質なのですが たくさん設定をつくって盛り込んでいくことで キャラや世界を魅力的にすることができます
明らかに「筋」ではないので「身(仮)」に分類していますが 実のところ設定づくりはかなり理性に属する分野です
設定はただ盛り込めばいいというものではなく 設定と設定の間 設定とわれわれの常識やバランス感覚の間で 齟齬が生じてはならず さもなくば価値が損なわれてしまいます
例えば世界に魔法が存在するとして その魔法で人間を生き返らせることが可能だとして その世界に墓はあるのだろうかとか 「死」に関する言い回しやことわざがあるのだろうかとか そもそも死なない世界で宗教や哲学は発展するだろうかとか 社会制度は同じでいけるのだろうかとか そういった点で齟齬が発生します 解決のためには実際に全世界をめちゃくちゃ作りこむか 「生き返るための条件を設定する」「完全には生き返れないものとする」とかで制限をかけるか 「同じくらいでかいカウンターウェイトを置く」とかでバランスをとる必要があります
「生き返りが担保されている安心感を再現したいから」といった感情面だけの要請ですすめるわけにはいかないのです
しかしながら
盛り込む設定を考案・決定する最初のステップは 感情が先行すべきだと思います
「その設定がかっこいいから」
「その設定がおもしろいから」
「その設定をやりたいから」
そこから始まり 「なぜかっこいい・おもしろい・やりたいのか」を分析して勝ち目をさぐり それが伝わるように身(仮)をしっかり整えたうえで 他のものをそこに合わせて理性でしっかり調整してゆく という手順で進めるべきではないかと思います
なぜなら それこそが 読者が直接目にする魅力になるはずだからです
かっこいいものに繋がっているからこそ 理性で埋めた設定もしっかり生きてきて しぶい魅力を放つこともあるでしょう
一番やってはならないのは 感情も理性もなく 手癖やステレオタイプでとりあえず設定を埋めてしまうことです それは絶対に 読者に伝わってしまうのです
あとは
まとめて
やっつけてしまいましょう
-
リアリティのある世界観やキャラクターをつくる
-
その他諸注意
■「リアリティのある世界観やキャラクター」
これはさっきの「身(仮)として設定をしっかりつくる」こととオーバーラップします
エンタテインメントにおけるリアリティとは何でしょうか
実のところ「現実的」と直訳して進めるのは危険におもいます
- 自然(非現実性・フィクション文化が物語没入の邪魔にならないこと)
- 豊か(現実なみに情報量があり、それらに時間的・空間的連続性があり、因果関係が整理されていること)
- 苦み(現実ならではの不作為性・非ドラマ性・非一貫性が適度な障害としてうまく機能していること)
このへんかと思われ それぞれ別のアプローチが必要です
自然 については とりあえず自然農法 オタクスラングやアニメ文脈を徹底的に排除してみて 素朴な感じにしてみるのはアリでしょう それで自分がどれだけカラッポで既成定型文だよりの創作をしていたか愕然とすることもあるでしょう
たぶん最終的に ある程度抑えつつも ある程度入れていってもそんなに怒られないんじゃね? という結論になるんじゃないかと思います 自然崇拝者は人工物への過剰な忌避感を持ちがちですが 大多数の人は自然も人工物もバランスよくとってくれます やりすぎて過度に無味乾燥になってしまうと 今度は「キャラが立っていない」ことから「人間が書けていない」みたいなクソ評論をくらいますので 注意しましょう
豊か については 理性と知識を発揮してしっかり組むことが大事です
因果を明朗に整理する論理性とともに 「こういう原因があったからこうなった」というケーススタディもとても大事です
「閉鎖空間に人を閉じ込めて役割を与えたら暴走した」というスタンフォード監獄実験のケースを知っていたからトガビトが生まれ
「鬼とよばれる存在は海を渡ってきた異民族かもしれない」という説を知っていたから白詰家の設定が生まれました(これ開示してることだっけ まあいいです)
1+1は2になりますが 現実はカオスなので ある原因がある結果に結びつくことを理論だけで万能的に導き出すのは不可能です 「こうなったらこうなる」をたくさん知り うまくアレンジして生かしましょう
苦み については 塩梅が重要です
前回「伏線はご都合主義を正当化するための下準備だ」みたいなことを書きましたが 現実においては伏線を貼ろうがラック判定に失敗して何も起きないこともあり 逆になんの努力もなく事態が解決して普通にうれしい みたいなこともあります
かといって全部サイコロ振って決めた結果を小説にして面白いかというとそうではないでしゅお
「現実の厳しさ」みたいなものは 基本的には「人間がもたらす」「障害」として運用するのが無難だと思います
「現実だと突然盲腸になったりするよね」とか 吉凶が天から降ってくる構造にすると 逆のご都合主義の正当化にしかなりません
「現実の人間はそんな決断できない」「現実社会はそんなルール違反を許容しない」
そこで壁にぶちあてつつ 苦しみつつ それでも乗り越えてゆくさまを書けば有効に作用するでしょう
単に厳しい現実にぶち当ててボッキリ追って「現実は厳しいんだよバーカ」とマウントをとるのは とりもなおさず 奉仕者としての書き手が避けるべき態度かなとおもいます
■その他の注意事項
いろいろあったんですが時間がたちすぎて忘れました
今ぱっと思いつく amphibian流の書き方です amphibian流なので 異論は認める
- 強キャラの運用には注意しましょう 自分がそのキャラを愛しすぎていないか ひいきして強くしていないか それゆえに不当に活躍していないか 強さの描き方は妥当か 中身スカスカなのにみんなが褒めちぎっていないか 陰で泣いているキャラはいないか
- 適切な批評をくれる協力者を得ましょう 完璧なアドバイスなんて誰にもできませんが 少なくともあなたと同じ立場でその創作物の重要性と技術の必要性を理解しており かつ客観的な視点をくれる相手が望ましいです 色々意見をくれる相手もありがたいですが 「振り回されている」と感じたら 別の人にも聞いてみましょう 協力者を得るのはとても大変なことです
- 文だけじゃなく色んなジャンルの創作に挑戦しましょう 知識だけでなく情報整理の手法を学ぶことができ ちょっとした検証や資料作成もできるようになります
- 他人に「この作品の面白いところはなにか」はちゃんと説明できるようにしましょう 自信をもつ というのも一つですが 目の前の相手におもしろさをぶちかまそうという意図をもって書かないと そもそも面白くなりづらいです
- 「作者の取り分」は どこかでとらないと嫌になって滅びますが どれだけ自重したつもりでも 人によってはバレるし いやがられます しっかり読者を楽しませたうえで これは取るべきものだと割り切って 取り分をとりましょう
このくらいに させてもらいましょう
いかがだったでしょうか
ここまで付き合ってくださった方は よほどポータルを気に入ってくださっているか よほど創作に行き詰っておいでか などと思いますが 求めたものは得られたでしょうか
個人的には いくつかワークフローを見直せたので 有用なこころみでした
つかれましたが
何年か先に意見が変わっているかもしれませんが
ひとつ変わらないと思うのは
色々考えることは無駄にはならないということかと思います
いっぱい考えていろいろ作っていきましょう
以上です
かくことシリーズ大変お疲れさまでした。
終始面白かったです。amphibianさんの言語化能力のすごさに改めて圧倒されました。
おもしろ回路を開くには自分でも創作してみるのが一番でしょうかね。ド素人ですが書くことにちょっと興味が出てきました。
やはり物書きは難しいことが多いんですね笑
さささのためだけにPS4買いました。
さささ出るまでは他のビッグタイトルして待ってます。